測深 LiDAR システムで 人と財産を守る
事例
著者: Renata Barradas Gutiérrez
取材協力:朝日航洋株式会社
日本列島の太平洋側は海溝が近い収束型境界があり、また、日本海側には多くの断層と峡谷が控えています。このような地理的環境と複雑な地形のため、海面上昇、洪水、地震、津波など、日本は世界で最も自然災害の多い国の1つと言えます。さらに、人口増加、気候変動、経済発展は、河川や海岸近くの平野部に暮らす人々やインフラ施設および生態系に脅威を与えています。
2016年の世界のリスク・レポートで17位にランキングされた災害リスクの高い国であるにもかかわらず、日本はその地形と環境を把握した上で長期的な戦略でリスクに備えています。
朝日航洋株式会社(以下、朝日航洋)の使命は、最新のハードウェアとソフトウェア技術を駆使してあらゆる災害から人命や財産を守ることです。 航空・空間情報サービス会社である朝日航洋は、空間情報データで将来の災害発生時のリスクを軽減できると考えています。 災害管理と防災を支援し、インフラ施設と地図情報の維持・更新のため、朝日航洋はモバイルマッピング、航空写真測量、地形/測深LiDARシステムを活用しています。
プロジェクトの実施
政府が管理する日本の直轄河川の総全長は約8,800kmあり、山間部から流れる急流により河床がV 字型になるという特徴があります。日本の河川を管理・監視している国土交通省は、200mピッチで河床の変位を監視するため、5年ごとに音響測深機等を用い主要な河川の横断測量を行っていました。災害を防ぎ復旧作業を迅速化するため、現在、朝日航洋は地形/測深LiDARシステムで取得したデータおよび地図を、所管する河川管理者へ提供しています。
朝日航洋は、ヘリコプターに搭載したLeica Chiroptera II 地形/測深LiDARシステムで正確かつ安全にデータを収集します。地形データ用の近赤外線(NIR)波長と測深データ用の緑色波長によって浅瀬地域だけでなく、内陸の河川・湖沼、洪水エリアの測深とマッピングを行います。
「我々はデータを正確に収集・分析して、変状・堆積・横断面・侵食・堤防の高さなど、すぐに利用できる情報を当局に提供しています。Chiroptera II には地形チャンネルと測深チャンネルの両方を搭載し、河川・海から陸地までシームレスに計測ができるため、浅い河川の計測には特に役立ちます。」と朝日航洋 担当部長 磯部寛氏は述べています。
朝日航洋はChiroptera II で取り込んだデータを自社開発の無人測深機「水中点検ロボット」で補完することで、より精度の高いデータ取得が可能となりました。国が管理する河川においてこの統合した手法でテストを行った結果、シームレスな点群データのみならず、河川の水深、濁度、色、温度、PHのデータの取得に成功しました。
LiDAR センサーをヘリコプターに搭載するメリット
日本の国土の73%は森林です。森林地域で航空測量を行う場合、朝日航洋では、垂直尾翼の上にGNSSアンテナを取り付けたAS350-B3ヘリコプターの下面にChiroptera II を搭載してジオリファレンス済みの点群データをより高密度で取得します。長距離・長時間の静かな飛行が可能な固定翼の航空機より、可変速度や短い旋回時間、また場外ヘリポートを利用することにより計測エリアに近い離発着場を柔軟に決定できること、そして低い高度での飛行が可能なヘリコプターの方が特に日本の地形に適していると朝日航洋は確信しています。
「飛行速度が遅い方がより点密度の高い点群データが得られます。音響測深機を備えたスワスボートでは入れない場所の計測が可能なヘリコプターは、高度を自在に変えて日本の険しい地形に沿って飛行することができるため、測深データを取得するのに適しています。」
さまざまなアプリケーション
Chiroptera II が取得したデータを使用して、デジタルサーフェイスモデル、テレインモデル、分類点群データ、オルソフォト、GISレイヤーのような幅広い成果物から、排水管理、氾濫管理、土地計画活動など水の流れを分析する水理モデルを生成することができます。エキスパートチームは、Leica LiDAR Survey Studio(LSS)を使用して河川の地形を理解し、正確にリスク分析を行うことができます。
朝日航洋が提供する定期的な断面調査は、下記のような幅広い用途に使用することができます:
- 氾濫シミュレーション
- 環境モデリングとモニタリング
- 河床の変状と水中の視覚化
- 河川水位の抽出
- 水位計の正確な制御
予測不可能だったものを予測 / 予測不可能なものへの備え / 予測不可能だったものへの備え
海岸・河川域に住む人々の安全のためには、地形の調査、変位の監視、そして異なる条件下での水の挙動を予測しておかなければなりません。航空レーザー測深システムは危険な地域や少々濁った水域でも有効な計測方法であり、沿岸および内陸水域の正確で高精度のモデルを生成することができます。
「空中レーザー調査から得られた詳細な地形データを用いて氾濫シミュレーションを実施し、1時間ごとの浸水区域や浸水到達時間を予測します。 シミュレーション結果とインフラ情報地図が分析され、避難ルート、退避避難所、被災民など危機管理に最適なデータを提供します。さらに氾濫中の航空写真も使用してステレオマッチングを行うと、表面の流速および流れの方向を分析することが可能です。」と磯部氏は述べています。